「探究型修学旅行プログラム」って御存知ですか?
修学旅行といえばバスで観光地を回り「観光を通じた体験」がメインでしたが、学生が社会と接続しながら学ぶことが新学習指導要領「総合的な探究の時間」で求められ、その実践の場が学校外での「越境体験」を取り入れた修学旅行となっているようなのです。
広島にある修道高校の「探求型修学旅行プログラム」の「芸術コース」のお手伝いに7月から9月末までの3回にわたり参加してきました。事前学習を2回行った後に、修学旅行先で実際の体験をするというプログラムとなっており、宇宙、金融、サスティナブルなど様々な分野があるなかで、この「芸術コース」はNPO法人ARDAさんが2023年から担当しており、三ツ木紀英さんからお声がけを頂いて私もその中に混ぜていただいたのです。昨年は国立新美術館の「田名網敬一 記憶の冒険」展を見たようですが、今回は森美術館で開催中の「藤本壮介の建築:原始・未来・森」を見るということで、建築家の私に声がかかったというわけです。
三ツ木さんはNPO法人ARDA(特定非営利活動法人芸術資源開発機構)の代表理事でして、対話鑑賞ファシリテーターを養成しながら対話による美術鑑賞を広めている方です。美術館等でアートを見ても「よーわからん!」と思う方もいらっしゃると思いますが、じっくりとアート作品と向き合って、目や心で感じたことを言葉にしてみながら美術を楽しもうという鑑賞方法です。わかりにくいフランス映画を一人で見て「悶々とする」楽しみ方もありますが、その「悶々」をなんとか言葉にして、さらにみんなで対話して共有し、深めていくという方法というわけです。
全3回のプログラムのうち2回は遠隔での講義形式でした。まずは座学で、「建築設計者が何を考えて設計を行っているのか」を理解していただくようなスライドレクチャーを行いました。広島には丹下健三設計の平和記念公園・広島平和記念資料館があります。その設計意図を伝えながら、その思想が谷口吉生設計の広島市環境局中工場につながっていることや、原爆ドームからの景観を守るような都市計画が作られていることなど、設計者の意図が長い年月にわたって受け継がれている現状をお話させていただきました。その後、夏休みの宿題として修道高校の卒業生である三分一博志設計の建築物をはじめ、実際に広島にあるいくつかの建築物を見ていただくように建築の所在地を記した地図を渡して、9月を迎えました。
2回目は、見てきてもらった建築物が一般的な建築物と比べどう違って、なにが面白いのか、何が新しいのかを私なりにスライドレクチャーで伝えました。その後、ユウキュウさん(有給をとって参加してくれたARDAの研修を経た対話鑑賞ファシリテーターのこと)に入ってもらい、ブレイクアウトルーム(数名のグループでの個別テレビ会議)で様々な感想を共有してもらったり、設計者の伝えたいことを考えてもらったりしました。
そしていよいよ修学旅行当日です。
画面越しだった学生さん17名とユウキュウさんと私は初対面をはたし、ショートレクチャーやグループワークを行いました。藤本壮介さんの展覧会を楽しむには比較対象を持つなど、多少の予備知識は必要ですのでその準備を今までの中で行ってきましたが、さらに展覧会を楽しむにあたり「藤本建築のなにが新しいのか?」などいくつかの切り口を書いたカードを持って学生さんには展覧会に挑んでもらいました。ユウキュウさんと対話を鑑賞途中に何度も繰り返しながら、2.5時間の美術館滞在を終えました。

会場ではユウキュウさんからの問いかけに学生さんは「感じたことを言葉」にし、「それを共有する」喜びで満ち溢れていました。促されて出てきた言葉に発言した学生さん自身が驚くような感じもあり、言葉での共有がさらなる学びを生むことを実感したのではないでしょうか。きっとこんなに長く美術館にいたのははじめてかもしれませんよね。また修道高校の学生さんは1伝えれば10理解する感じでして、理解度がとても高いことに救われました。最後に三ツ木さんによる振り返りワークショップをおこない、質問タイムなどを経て17時に解散となりました。
私はあくまでもゲストでして、全体の進行等は三ツ木さんたちARDA任せでして、要望されたことに応えるべく頑張っただけなのですが、とても良い経験になりました。建築の面白さや魅力を伝えるのが私のライフワークの一つと考えてはいるのですが、どうすれば伝わるかはいつも試行錯誤の連続という感じでしたが、ARDAさんの方法論を垣間見せてもらうことで私もかなりの学びを得ることができました。
なるべく早い段階で建築の世界を知ってもらえると嬉しいなと思っていまして、小・中・高等学校に出張授業なども行っています。建築の魅力や面白さをたくさんの方に伝わるような課外活動にご興味があればお気軽に問い合わせフォームよりご連絡ください。

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