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KAIT広場(建築家とまわる建築散歩2023) 2023.05

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 先日は「建築家とまわる建築散歩2023」の2回目でして、「本厚木」に行ってきました。
 5月は建築家である石上純也さんが設計した建物を見るという会となり(いつもはたくさん見ます)、本厚木駅から歩いて「アミューあつぎ」8階の子育て支援施設を最初に見てきました。下階の梁の上に載せた雲形の不思議な間仕切り壁で2000平米の空間を緩やかに分節するというものでした。(撮影禁止でしたので、写真がありません)
 次は本厚木駅からバスで約25分、神奈川工科大学に移動しました。2008年に完成したKAIT工房についてはここに書いてあるので、今回は2020年に完成したKAIT広場について書いてみたいと思います。

 「広場」というだけに、機能はあるようなないような感じです。確かに「広場」には機能はあるけど、なにか絶対的なこれがなきゃいけないという条件はほぼないので、まさにここは「広場」です。広場というと公園とか、ショッピングモールのおおきなアトリウム、また、海外でいうとサンマルク広場のように都心のオープンスペース、なにもないけど、なにかが起こりそうな可能性を感じさせる「なにか」がある場所です。無限に広がっているだけの場所は「広場」ではありません。有限だからこそ「広場」でありうるわけです。

 まずは概要から。この「広場」の大きさはここでは約4000平米。もともとあった斜面を活かしているので床は緩やかな斜面となっており、透水性アスファルトで仕上げられ、その上に約80メートル×50メートル、巨大な1枚の鉄板のすりばち状の勾配屋根が柱もなく存在しています。屋根の厚みは42ミリ(鉄板12ミリ+アスファルト30ミリ)で、その屋根の中に1辺1.8m〜3m正方形が開口部が全部で59ヶ所あって、そこから雨や風、さらには虫などもはいってきます。天井高は2.2〜2.8mほどで手を伸ばせが屋根に届くような場所もありました。
 簡潔に言えば「4000平米の穴あき屋根が四周の壁だけで支えられている空間」です。

 屋根だけで580トンという重さがあるようなのですが、外周の鋼材による壁と83本の基礎杭とアースアンカー54本による基礎部分で支えており、吊橋を360度回転させたようなものがこの不思議な空間を成立させています。そして鉄板の熱収縮で天井高が30cmほど変化するというスケールもびっくりします。

 ここはなんなのか?建築とは何なのか?そんないままでの建築という概念を超え、それを私達に問いかけてくれる建築であることは間違いありません。いわゆる都市の広場のように周りから見られるような場所ではありませんでした。屋根開口部からは空が見え、壁の窓からは一部校舎が見えますが、視線は制限され、室内的だと感じました。つまり、そんなに開放的ではなく、内部にいると守られている感じがありながら、見える景色は緑や空でした。壁の開口部からは土で盛り上げられ、地面に植えられているクローバーが演出のように牧歌的な雰囲気を感じさせます。視線が制限され、窓で切り取られることでより周囲の自然を意識的に感じることができました。雨の美しさ、光の乱反射がもたらす影がない幻想的な風景、高低差があるけど人がいるのでそれを知覚できるのですが、人がいなければ床壁天井がシームレスにつながっていると感じる不思議かつ自然現象をゆっくりと観察できる感動的な体験でした。

 私が行ったときは雨が降ったりやんだりしていましたが、雨のなかでもこの内部は傘をさす必要はなく、快適でした。床の透水性アスファルトはとても優秀で、屋根開口部から降った水を瞬時に吸収し、アスファルト表面を流れる水はほぼありませんでした。よって、雨でも濡れている地面は開口部下のみで、その他の部分は座ったり、寝転んだりもできますし、そのようにしていた方も多数いました。また、壁の開口部は全てガラスで塞がれており、かつ壁側にむかって床がもりあがっているのもあり、雨が当たらない安全地帯という感じでみなさん、全体に鴨川に座るアベックよろしく、適度に中心に向けて散らばっている感じでした。

 さて、この空間は何に似ているかなぁーと考えて、まっ先に浮かんだのは「豊島美術館(設計:西沢立衛)」でした。角がない曲面で仕上げられたシームレスな巨大空間かつ白色、郊外にあるという共通点はいくつもあります。更にいうと、チームラボの展示や、オラファー・エリアソンの体験型アート作品のようでした。そこにゆっくりと佇みながら、周りの自然(光、音、風、空、緑)を感じる。そのため、人工的部分の余計な情報(素材感とか重さとかデティールとか)を極力感じさせないように白色で床・壁・天井が統一されていました。
 そう、建築というよりもここはアート作品の中という感じでした。ちょっと嫌な言い方をすると入場料を払って入る美術館やテーマパークのようでした。そんなふうに斜めに考え始めると、KAIT広場はアミューあつぎで見た各種張り紙やら危険を示す赤いパイロンなどはなく、ゴミも一切落ちていませんでした。抽象性を確保するための最大限の努力や演出がされているわけです。
 こうして俗な部分が漂白されている空間だからなのか「中でお弁当を食べたい」とか「歌いたい」などは思わず、ただ「ぼーと佇みたい」という気持ちのみで、あの場所で大声出したり、走り回ったり、そんな風景はあまり想像できませんでした。一時間ぐらい、しかも割と雨の時間も長かったので、季節のよいときは大学生のみなさんがご飯食べたり、走り回ったりしているのかもしれませんが。。。。

「広場が持つ自由」
「公園が持つ自由」
などいろんな自由さがあり、同時に何かに縛られて不自由なわけですが、今回は美術館が持つような自由さと不自由さを感じました。

 とはいえ、世界で一つしかない見たこともない空間であり、屋根から入る光が内部なのに拡散している状況は感動的であることは間違いありません。実際に体験しないとわからない空間なので、ぜひとも足を運んでみてもらいたい空間です。なお、見学の予約はこちらからできます。

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