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家はオーダーメイドでなくてもいいのか?1回目 2023.06

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 建築家が作る家はオーダーメイドです。

 「身体の寸法を測り、その人の体型にあったオーダースーツやYシャツを仕立てるのは贅沢すぎるのではないか?」と思う方もいるかも知れません。ユニクロで服を買うときであっても、色も形、実にたくさんの中から選べるので、それで十分だと。しかし、「自分自身の体型にぴったり」ということはなかなかないのかなと思います。首が長い方・短い方、腕が長い方などなど人はそれぞれ固有の特徴を身体的にももっています。スーツの英語表記である「SUIT」は「似合っている、ちょうど良い」などの意味があるように、その人向けにしつらえる服は似合っており、かつちょうどよいという意味なのでしょう。

 住宅であっても、建売以外の注文住宅であればキッチン、ユニットバスなどの仕様や、ビニールクロス、フローリングなどの色や素材等を決める機会はあると思います。分厚いカタログを持ってきて、「このカタログから選んでください。ただし、このランクアップの商品だと〇〇円アップ、このランクダウンの商品だと〇〇円下がります。」という感じでしょうか?ユニクロ並みにたくさんの中から選べますよね。

 しかし、じつはその他に本当にすごい種類が選べるのです。嫌になるぐらい。。。。。
例えば建具(扉)ですが、これもたくさんのパーツから構成されています。一番目立つ扉の面材の素材は、「木・鉄(金属)・印刷されたシート・ポリ合板」など凹凸やガラスなどの装飾がなくてもものすごい種類があります。更にマニアックになりますが、扉を吊るための金物だけで何種類もあり、更にその中に色や形のバリエーションがあります。建築家はよくある「丁番」ではなく「ピポットヒンジ」という扉を吊る金物をスッキリ見えるのでよく使いますね。

右上にある銀色の丸いものがピポットヒンジ

 その他にも鍵、レバーハンドル、ドアクローザー、戸当りなど、実にたくさんのパーツの組み合わせで建具は構成されており、オーダーであればそれらを一つ一つ専門メーカーの分厚いカタログ何十冊のなかからすべて選定できるのです。建築家はこれらの金物から一つを選択し、たくさんのパーツを組み合わせて一枚の建具デザインを決めているというわけなのです。
 新建材と呼ばれる建具はセミオーダーで、数種類は選択することができるようになっています。確かに全部を一般消費者に選んでもらうにはそれを説明するだけで日が暮れてしまいます。わかりやすい目立つ部分だけを限られた選択肢の中より選択するように仕向けているわけです。合理的です。

 服で言えば、生地はもちろんですが、縫い方、縫う糸の色・素材、パターン(型紙)、ボタンの種類、折返しの長さ、などなどのすべてを決めていく感じと似ています。確かにこんなにたくさん選べると言われても迷ってきめられないという感じもするのですが、建築はそれを何倍も複雑にし、さらに一度きりなので失敗できない感じでしょうか。

 さらに、さらに、カタログから選ぶのではなく、フルオーダーという選択肢もあります。面材をオリジナルでデザインとするのはよくありますが、昔であれば丁番、レバーハンドルなどの金物さえも制作するということがありました。いまではそこまでデザインする建築家は少ないです。下記の取手は制作しましたが、複雑なものは私も未経験です。今は何百種類の既製品があるのと、制作すると既製品の何倍も価格がかかるのと、そこまでの能力が建築家から失われている、そこまでこだわるクライアントがいない、というのが理由かと思います。注文をいただかないとそれに対して鍛錬するチャンスがないので、私達建築家も結局はどんどんそういった腕を磨く場が失われていっています。

中央の取手は特注制作しました

 では、建築家はどうやってこういったものを選定しているのか?ですが、私の場合は駆け出しの若いころは時間だけはあったので、たくさんのカタログをよく眺めていました。そして、毎回物件ごとに金物を変え、クライアントと相談しながら色々と試してきました。そうして長く設計を続けていくと、個人的にしっくりと来るシンプルな「岡村ベストセレクション」がなんとなく出来てくるのです。いつのまにか廃盤になってしまったり、新商品もでるので、それらをチェックしつつ、またクライアントの雰囲気を思い浮かべつつ、全体のインテリアの色や素材、空間の質を思い浮かべつつ、選定をしている感じです。クライアントと相談して決めることもありますし、お任せいただけることもあります。知り合いの設計者が設計した家を見せていただいたときに感化されたり、雑誌とかでも「これいい!」と思ったり、ゆっくりと更新していく感じでしょうか。大学卒業してすぐに勤務した設計事務所がよく使っていた金物をそのまま引き継いでいる建築家が多いのかなと思います。私はそれがないので、かなり右往左往していろんなものを使いながら、自分なりに洗練させていきました。

 「知っていることが増えると知らないことが増える」
と言いますが、まさにそんな感じです。こんなにも選べるのかと思うと、もっともっととなりますが、知らなければこれで良いとなります。オーダーとは「これでいい」から「これがいい」となるための一歩なのです。「選べることは豊かである」とすれば、選べる知識をつけ、選ぶ時間を見つけ、選ぶ楽しさを感じる人であればぜひとも建築家とのオーダーメイドの家を一緒に作るととても楽しいと思います。オーダースーツは購入してもすぐには出来ませんので、それが到着するまで「こっちのほうが良かったかなぁ」とか「あのときに着ていきたいな」とかドキドキしながら待ちます。そうするとその服をきっと大切に使うと思います。そんな家を私も一緒に設計したいのです。

 あっという間にどんどん長い文章となってしまうので、次回は「そんなことしたらめちゃ価格が高いのではないか?」について書いていきたいと思います。

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