BLOG ブログ

  1. トップ
  2. ブログ
  3. 多摩美術大学図書館2

多摩美術大学図書館2 2007.06

一覧へ戻る

不思議な形をした階段で2階に上ると、ほとんどが低い本棚に囲まれた閲覧室です。1.2階とも外壁はどの面も内部と同じアーチにガラスがはまりましたという表現そのままにできており、その開放的な窓から八王子の開発が途中でストップしたまま植物が生い茂ってきている様子がよく見えます。細長い閲覧テーブルがぐるりと3辺の外壁に沿って制作されており、「前に見えるのは景色だけ」の素敵な環境が学生に与えられています。ほんと、もう一度学生に戻ってここに入学し、もう一度勉強したいと思いました。
その机で囲まれた中央部には高さが1.3メートルという本棚が曲線で不規則に並んでいます。この高さは座ると囲まれて周りが見えないが、立つと全体が見渡せるという寸法で本に囲まれているという圧迫感は全くありません。それら家具の配置で通路が膨らんだようなたまりを作り、そこに閲覧用テーブルをいくつか配置されています。これまた絶妙で、本の中を回遊しながら休めたり、ちょっと座って閲覧ができるようなソファーがおかれています。また、床に座り込んで本を見たりしても通路がうねっており、本で囲まれているので程良いプライベートスペースが確保されている感じになります。
本棚もよく見るとすごく棚板が薄い。たぶんアルミのハニカムコア(飛行機のつばさとかに使われている)だと思うのですが、本が積まれている圧迫感など一切感じさせない本棚とその配置です。
外観は外壁面とガラスが面位置(同じ面)で納まっていたり、各部分のデティールも完成されている感じを受けました。こうした革新的な建物となるとどうしても納まりが悪くなったり、細部がうまく処理できなくて汚くなったりしているのですがどこ見てもそんな隙はほぼないのです。いろんなところが秀逸にできており、完成されてきた伊東事務所の経験値が新しいデザインと相まって相乗効果を生みだしていると思いました。民間の建物でここまでお金と時間をかけてこうした建物ができたことに敬意を表すばかりです。
この「多摩美術大学図書館」は伊東さんのお仕事の中で新しい展開がきっちりと空間化されており、成功している感じを受けました。仙台メディアテークではメッシュ状の柱を作り、本当の意味でのユニバーサルスペース(均一で自由な空間)を作ることで人々の活動を規定しない事を目指していたと思います。そのためには建築に不可避である構造をなるべく消去するためにメッシュ状の存在感のない柱をつくり、すごく薄いスラブ(床)にたどり着いたわけです。しかし、メッシュ状の柱は実際にできてみると「鉄の塊」であるという物質そのものに直面し、がっかりしたというようなコメントを伊東さんは話していたようです。
結局、構造を消去するために努力をするという方向性そのものの限界を感じたのではないでしょうか。そこで、大きく方向転換をしてその不自由さをもっと空間を魅力的な物にする武器にし始めている感じをこの図書館で僕は感じることができました。
建物の平面的形や、柱が落ちる位置などが今まで通り規則的に、かつ大きな存在感だと、どうしてもその規則的リズムが人間活動を規定していくような感じがしますよね。それを今回は外形を不定形にして、それに伴って柱の落ちる位置は不規則になるだけで、不自由さを感じることはありませんでした。どちらかというと不規則に落ちるアーチの柱がゆるやかに大きなワンルームを分節することで自分がただ広い空間にいるのではなくアーチになんとなく守られているような感じを受け、逆に心地よく感じるのです。緩やかに包まれている衣服のように建築が柔らかい印象に変化している兆しを感じます。
曲面を多用したインテリアや建築がはやりですが、これはそれをきちんと活かしとてもよい例だと思いました。なんだかべた褒めでちょっと自分でも気持ち悪いのですが、見に行く価値ありですよ。

CATEGORY

YEAR