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司馬遼太郎記念館 2005.03

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大阪で設計の仕事があって午後3時から建て主との打ち合わせだったのですが、せっかく大阪に来たので少し足を伸ばして小旅行をしてきました。梅田から40分ほどかけて西大阪市の安藤忠雄設計の司馬遼太郎記念館に行ってきました。最近はあまり建築を見に行く機会も減っているので久しぶりに楽しめましたよ。マニアな僕には建築を見るだけで十分楽しめる特殊技能があるので・・・・
記念館は駅から15分程度という丁度良い距離にありました。あまりに近いのも興ざめだし、遠いのはさすがに疲れるし。すこし散歩気分で街の中を抜けていく感じはなかなか良いものです。建築というのは砂漠の中にぽつんと建っているオブジェではなく、周りとの環境の中に立っているのでそういった街の雰囲気を感じながらどう建っているか(存在しているか)も重要ですよね。
看板がないと思わず通り過ぎそうな感じで住宅の中に「司馬遼太郎記念館」はありました。でも安藤さん設計の建築は見えません。門をくぐって自販機で入場券を購入し(500円)、正面にちょっと高級そうな住宅があります。更に進むとガラス張りの場所がありました。どうやらこの建物は司馬さんの自宅なようです。(知りませんでした・・・)。書斎やサンルームが外から見られるようになっており、亡くなる直前まで仕事(執筆)をしていた様子がそのまま残されていました。
庭には季節の花が乱雑に見えるほど自然に咲いており、手を入れすぎていない木立の庭がありました。そこを抜けると安藤建築の姿が見えてきます。周辺の木で見えないように建築高さを配慮し、地下に埋め低いボリュームで抑えられているのです。よってこの住宅地の中でもそんなに違和感なく収まっているのですな。地下に埋めるというのは2階建てにするよりもかなりコストがかかるのですが、こうした住宅地であればそれだけの価値がありますよね。
ただ安藤さんは「自然との調和」と言うことでそこで簡単に木をつかったりせず、きちんと自分が持っている言葉「鉄、ガラス、コンクリート」を駆使し、なんとか共存しようとしています。有機的な形態をすればとか、木を使えばそれは「自然との共生・調和だ」と何も考えないで素材だけで主張している建築家の人とかいてぼくはうんざりするのですが、安藤さんは安藤さんの方法で正面から向き合っているので僕は好感が持てます。今の時代の技術、素材を否定しないで、表面的でない解法を求めているからだと思うからです。
さて、入口は司馬さんが好きだった菜の花がきれいに飾られています。季節としては少し早いので、どこで栽培しているかわかりませんが、見事な黄色の花を満開に咲かせた菜の花が生けてありました。コンクリートとガラスの廊下空間の中でとてもきれいです。
庭を見ながら長い廊下を抜けて室内にはいると右手には地下に吹き抜けている大書庫が見えます。階段を半分降りた突き当たりには各種透明ガラスで作られたステンドグラスがあり、完全に降りきると視界が極端に広がり、壁面全部本棚空間にたどりつきます。
吹き抜け壁面いっぱいに本棚で埋め尽くされており、司馬さんが執筆する際に参考にした本の1部が収納されています。司馬さんの脳の一部のような感じですね。中央には大きな丸テーブルがありそこでただその雰囲気を楽しむという感じです。この司馬さんの参考図書の中で司馬さんが書いた小説に思いを巡らしたりするような場所というわけです。自筆の原稿など展示もあるのですが数点のみであり、あくまでもおまけのような感じですね。すごく純粋なコンセプトですが納得させる雰囲気がありました。
奥にはホールがあり、司馬さんに関する映像が定期的に放映されていました。これで展示が終わり階段を上って1階に戻るとそこはカフェになっています。これまた大きな丸テーブルのみ中央にあるのみです。
そうです。ここは司馬さんファンが集まり、司馬さんについて思いをはせたりするコミュニケーションスペースが設計されているのでしょう。記念館といっても展示はあくまでも脇役で、一人で来た人もここで円形テーブルに座り、大家族のような感じを受け、司馬ファン同士の会話を誘発したり、来場者ノートにいろいろと書き込んだりすることでしょう。
建築設計の構成やコンセプトはきわめて単純です。最近の建築家がファサードをいじって視覚的なおもしろさや構成の複雑さを競い合っていますが(ぼくもそうです・・・)、安藤さんは建築の力の最も原始的なことを少し操作し、いつもの言葉(素材)を使って素直に建築を作っている気がしました。円弧状の柔らかなカーブを描く建物も特別目新しいわけではありませんが、光が柔らかく奥に導かれてきたり、建築が持つ力を最も少ない手数で引き出していると思いました。
どきっ。いま基本設計している仕事もひたすらこねくり回していたぁーー。「なんか新しいことしなきゃ」って口癖だしなぁー。ちょっと建築の力の初源的な部分にふれ初心に戻った気がしています。
時々安藤建築を見るのはおすすめですぜ。
あと、あべの橋(天王寺)でぶらぶら時間つぶしていたら「こんにちわ」と声をかけられました。たぶんT美大の学生だったなぁーといううろ覚えがあるのですがそのまま会話せずに終わりました。大阪来て偶然知り合いに会うなんてちょいとビックリでした。で、誰だっけなぁー?

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