建築家とハウスメーカー 2008.05
先日の相見積りについてですがちょいと違う視点で見て行きましょう。
業者としては見積り依頼をしてもらえなければ、工事を請ける可能性が全くない訳です。見積りをして始めて土俵に上がる事ができるので、よく工務店は「見積り依頼していただきありがとうございます」とお礼を言ってくれたりします。つまり、この見積りにかかる経費は広告費と考えれば良い訳です。そこで、大企業であるハウスメーカーに目を向けると見積りが無料なのは当然ですが、その他の広告費は更に更に莫大です。新聞折り込みチラシやCM、住宅展示場維持管理(年間1棟維持費最低1億かかると言われます。)、営業マン等々莫大なお金が実際に建てるときにかかる材料費や手間賃以外に乗っかって来ている訳です。(一般的にハウスメーカーの工事費以外のその他の経費率は支払った契約金額の三割と言われています。噂で根拠不明)
とはいえ、大企業の論理と中小企業の論理は一概には比べられません。例えばハウスメーカーは材料を大量購入する事で安く建材や器具等を買う事が可能ですので、その余剰分を広告費に振り分ける事が可能です。
僕たちの世代はきっと透明である事を願っています。1万円支払えば1万円がだいたいどのような使われているのか知った方が嬉しいと感じる世代になって来たと思います。もちろん広告費も必要ですが、それが自分の支払った金額のどれぐらいの割合で、目の前にいる丁寧な営業マンにはどれぐらい支払われているか知りたいと思いませんか?
しかし、それらはブラックボックスです。逆に知るとあまりに自分の家の施工に使われていなくてがっかりしてしまう事が多いと思います。ぼくの建築の世界に10年程いますがそれでもまだまだお金の事はわからない事だらけですがこの好奇心は持ち続け、クライアントの素朴な質問には何でも知っている事は話し(嘘はつきたくない)、一緒に考えて行きたいと思っています。
そこで、よく聞かれる質問に応えてみたいと思います。(反論歓迎)
なぜ建築家の建てる家(坪70万ぐらい)と、ハウスメーカーの家(坪30万ぐらいと広告)でこんなに差が出るか、僕の仮説を説明してみます。
これは人件費にすごい幅があるからだと思っています。
材料費は全体契約金額から見ると3割程度ぐらいでして、工務店やハウスメーカーごと工夫をしてもそんなに大きくは変わる事はありません。(契約金額の1割程度は変わる)
その点、人件費というのはある意味「ざる」なのです。
ハウスメーカーは営業マンや広告にお金を使う事で、定期的に仕事を取る事が可能となってきます。となると、工事を請負う職人さんは仕事が途切れる心配がなく、サラリーマンとして働く事が可能となりますので、安くても仕事をしたがります。また、仕事はいつも同じで、主に偽物の材料(反り等材料の特性がない)を使った簡単な組み立てなので、腕の良さや経験は問われません。となると、若くて経験がない職人さんを安く雇えます。更には、同じ仕事ばかりなのでこの仕事は何日でできるという計算がより精密になり、切り詰めた請求ができます。だいたいハウスメーカーの住宅ですと3ヶ月で工事は完了します。
また、現場を仕切る現場監督は週2回くれば良い方で、ほとんど大工さんが仕切って適当にうまく作り上げてくれるというため、人件費も削除できています。一人の現場監督で10件ぐらい監理してしまいますし、もっと監理しているという人もいるかと思います。
逆に建築家の仕事はどうか?というと上記と全く逆です。建築家より継続的に仕事が来るかどうかは不明ですし、建築家の要求する仕事は本物の材料なので、職人さんの腕が良く、材料の特性をしる経験豊かな人でないと完成しません。となるとサラリーマンの職人さんではなくフリーの職人さんとなる訳です。
また、建築家の仕事は建築家によって思考が違うので実際に一緒に仕事をしてみないとどのレベルを求めているか不明です。よって、思ったより時間がかかってしまう仕事だったりする可能性が強く、ついつい余分な施工日数を見てしまいます。さらには少し手抜きすると建築家が監理来てやり直させられるので、時間をかけた丁寧な仕事が求められてしまいます。
また、現場監督はなるべく現場に行かないといろいろな事が進んでしまい手直しとなるので、豆に現場に行き、職人さん指示を出したり、材料の発注を建築家に確認しつつ行うため手間(人件費)がかかります。だいたい建築家の仕事で住宅規模ですと優秀な方と言えど同時並行で3件が限度かなといったところです。そうなると着工から竣工までだいたい半年はかかってしまいます。
というように、建築家の仕事は手間がかかり、良い職人さんを雇うため人件費がかさみます。よって、建築家(工務店)の建てる家においては人件費の占める割合がとても多いと思います。
とはいえ、全然コストがかなわないかというそうでもありません。
宣伝されている坪30万というのは照明、エアコン、外構等は別途で、全ての設備はメーカーを制限され最低ランクとなっていたりするので、なんだかんだと実際の希望を入れて行くとあっという間に坪50万から60万程度にはなってきます。最低限ランク仕様で造った家をすごく安くして広告し、人々の関心を引き、オプションで儲けるというわけです。でないと、大手メーカーは広告費やモデルハウス維持費がまかなえません。
しかし、建築家に頼むのに比べ坪10万安いから(合計では30坪としたら300万)大手メーカーに頼むとしても、中身はそれ以上に違う事がよく見るとわかると思います。
ハウスメーカーの素材はほぼ100パーセント偽物です。木目が印刷されたシートが表面に貼られている木目調既製品ばかりです。全部工場で加工されているので見た目の完成度はもしかしたら大手メーカー住宅のほうが良いかも知れませんが、これはどこに行っても、誰の家でも同じ完成度で、手の感覚はなく、誰が工事をしたかわからないように漂白されてしまっています。
安い石油材料、安い人件費、均一な生活像から導かれた間取りとすることで量産化をすれば当然安くなるという訳です。
であれば、有名人のCMにお金を払ったりするより、目の前でしっかり働いてくれている顔の見える腕の良い職人さんや良い本物の素材にお金を払った方が良くないですかね。
どのように家を建てるかの選択肢は自分で握っている訳ですので、時間をかけてゆっくりと考えてみてください。
と答えています。