姉歯さんと朱鷺メッセ連絡橋落下 2005.11
ご無沙汰していました。
今度は小田原のコンペやってましてばたばたしておりました。
最近もちきりの姉歯さん。いろいろと批評家が「この事件の社会背景は・・・」と深読みをしていますが、僕は個人的には一種のクーデター(テロ)だと思っています。あの開き直った姿はちょっと尋常ではない気がするのです。むかし押井守監督のパトレイバーという映画で自衛隊の戦車や装甲車が町中を走ってある場所に集結しているのに、平和ぼけした日本人は全く気にとめない。「なんか演習でもあるのか?」ってかんじで。それであっとう間に制圧されてしまう。そんな話しもありますが、あの姉歯さん一人で何千人もの人間とお金を動かして、すごい脅威を国民に与えているわけですから、こりゃすごい。税金まで投入されそうな勢いだし・・・。もし、巧妙な計算書を作成し、0.8ぐらいの耐震性なら現場でも誰も気が付かない。仕事をしてお金をもらいつつ、ひ弱な耐震性とすることができる。それは何十年に一度の地震で発見され、自分のそのマンションに住んで死んでしまえば罪は問われなくてよいのです。
というわけで、僕個人的には今回の件はすごく特殊な例だと思います。計算書をごまかしてもそれなりの労力はいるし、お金がすごく儲かるわけでもないし、地震が来ればすぐばれるし、あんまりメリットない気がするのです。だからあの姉歯さん個人がすごく変な気がしますね。
また、審査機関はかなりの量の審査をしています。今回の偽造はかなり幼稚なレベルな気がしますが、構造計算プログラム内部も操作できてしまえば絶対審査で発見できません。。医者、弁護士と同じように「先生」とよばれ、良心に基づいてやっているはずだという前提があるから、こうした甘いチェック体制なのでしょう。本気で審査やったらかなり大変で、お金と時間が膨大にかかります。しかし、その概念は今回の事件により根本から覆されましたね。(しかし建築家は責任は重いが報酬が少ないという事実もあります)今後の国土交通省の対応が気になります。
それに関連してこんな話しもあります。新潟で橋が落ちたことがありましてその裁判が行われています。そこで、構造設計者が窮地に追い込まれているでその費用をカンパしようという趣旨です。
趣旨には全く異論はありませんので、良いのですが、そこでちょっと疑問がありました。
建築設計は大きく意匠・構造・設備と分かれています。意匠設計者が施主と契約を結び、工事請負契約にも設計者として署名・捺印を押します。その意匠設計者の下請けとして設備事務所や構造事務所があります。しかし、変なことに意匠設計と構造・設備と交わすような契約書がありません。(契約している人いますか?僕が知らないだけかもしれません)となると、構造的な欠陥・設備的な欠陥があっても意匠設計者が矢面に立たざる得ないのです。なんだか変ですよね。また正直いいますと、意匠設計やっている僕たちで計算書を見て内容を読み込んだりできる人はほとんどいないと思われます。下手すれば意匠設計者は見もしません。ここにも前提として「構造設計者を信用している」という性善説に基づいてやってます。となると、構造設計者が仮に計算書を操作していても全く気が付きません。(姉歯さんのようなかなりやばいものはさすがに気づくと思いますが)。また構造設計者が必ずしも建築士を持っていないと仕事ができないわけでもないですし、意匠と設備と構造が同じ資格というのもかなり無理があるという背景はあると思います。
この事件が発覚する前、構造設計者に「あなたは建築基準法にくらべてどれぐらいの余裕を見ているのですか?」と質問したら「こんなこと質問されるの初めてです」っていわれました。これ、現実です。
橋の落下の責任問題・今回の姉歯事件、意匠設計と構造設計との関係のあり方をいろいろと考えさせられますね。